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福永光司の解説|金谷治の解説|藤堂明保の解説 || 荘子内篇の素読 |
【原文】 ※原典「荘子」 荘子―古代中国の実存主義 (中公新書)
南海之帝為儵,北海之帝為忽,中央之帝為渾沌。儵與忽時相與遇於渾沌之地,渾沌待之甚善。儵與忽謀報渾沌之コ,曰:「人皆有七竅以視聽食息,此獨無有,嘗試鑿之。」日鑿一竅,七日而渾沌死。 【読み下し】 南海の帝を儵(しゅく)と為(な)し、北海の帝を忽(こつ)と為(な)し、中央の帝を渾沌(こんとん)と為(な)す。儵と忽と、時に相与(あいとも)に渾沌の地に遇(あ)う。渾沌、之(これ)を待つこと甚(はなは)だ善(よ)し。儵と忽と、渾沌の徳に報いんことを謀(はか)りて、曰(い)わく「人皆七竅有りて、以て視聴食息す。此れ独り有ること無し。嘗試(こころ)みに、之を鑿(うが)たん。」と。日に一竅を鑿つに、七日にして渾沌死せり。 ※渾(コン) 軍は「勹(とりかこむ)+車」で、並べてまるくまとめること。 渾は「水+音符軍」で、全体がまるくまとまり、とけあっていること。 ごたまぜになっているさま。分化せずに全体が一つにとけあっていること。ぜんぶひっくるめて。 ※沌(トン) 「水+音符屯(トン)(ずっしり)」 「混沌(コントン)」とは、万物が形をなさず、もやもやとしたさま。宇宙・万物のはじめの状態をいう。 【混】 ・・・ 「水+音符昆(コン)(まるくまとまる)」 ※儵(シュク) 「K+(音符)修の略体」で、小さく細くちぢむの意を含む。 たちまち。ほんのわずかな時間のうちに。 儵忽(シュッコツ)(あっというほどの短い間) ※忽(コツ) 「心+音符勿」で、心がそこに存在せず、はっきりしないまま見すごしていること。 たちまち。いつのまにか。うっかりしているまに。 |
【解釈】 福永光司|金谷治|藤堂明保 ★その1(福永光司) topへ! さて、応帝王篇の最後の説話は、有名な”七竅に死す”の寓話である。この寓話は応帝王篇の結論であるとともに、荘子全体の結論とも見ることができよう。 「南海の帝を儵(しゅく)と為(な)し、北海の帝を忽(こつ)と為(な)す」
「儵」「忽」はこれを一語にして、儵忽(しゅくこつ)という言葉があるように、いずれも極めて短い時間、束の間(つかのま)という意味である。この、人間の束の間の生命を象徴するかのごとき、儵という名の南の海の支配者と、忽という名の北の海の支配者とが、ある時、その遙かなる海の果てから、世界の真中(まんなか) ── 渾沌の支配する国で、ゆくりなくも一緒にめぐりあった。「渾沌」とは、いうまでもなく、大いなる無秩序、あらゆる矛盾と対立をさながら一つに包む実在世界そのものを象徴する言葉にほかならない。
これらの「儵」「忽」「渾沌」という名まえには寓意がある。「儵」「忽」はいずれも迅速の意味で、すばやく機敏なことから人間的有為にたとえ、「渾沌」は未分化の総合態で自然にたとえている。
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