「龍」は平和のシンボルである、というのは陳舜臣氏の説。龍は部族のトーテムであり、他の部族を「征服」することなく、平和的な統合(融合)を繰り返した結果、あのようなシンボルになったという。 他の部族を武力でもって征服した場合は、相手方のトーテムなどかえりみることなく、自分たちのシンボルを相手方に押しつける。力ずくで併合したのだから被征服者には自分たちのトーテムを使用する自由は与えられない。その例が「鳳」(ホウ・おおとり)であるという。 「鳳」は、「龍」と同じく想像上の動物であるが、篆書の字形を見てもわかるとおり、動物図巻にまぎれ込んでいても気がつかないほど自然な鳥の姿に近い。これは、強力な武力をもったある部族が、他の部族を征服しつづけて、ほとんど自らのトーテムをいじることなく維持しつづけた結果であり、いわば「鳳」は武力の象徴である・・・という趣旨の記述を読んだのはずいぶん若い頃のことである。陳舜臣さんの著述だが、今どの本であったか思い出せない。 昨年手に入れた 「龍鳳のくに?中国王朝興亡の源流をたどる(陳舜臣)」 は、その考えをさらに敷衍した著作。おだやかな農耕の民“龍”と猛き狩猟部族“鳳”を中心に、中国古代王朝の興亡に迫った未発表の長篇エッセー150枚を収録した歴史エッセー集となっいて、味わい深い文章であった。 さて、「龍」は、「鳳」とは対照的である。いろんな部族のトーテムが混合し、まかり間違っても動物図巻には掲載されることのない姿となっている。一説によると、龍の姿は「角は鹿、頭は駱駝、眼は兎、身体は蛇、腹は蜃(注)、背中の鱗は鯉、爪は鷹、掌は虎、耳は牛」だという。 つまり、他の部族と融合した結果、次々と相手のトーテムの一部を取り入れ取り入れした結果、このように複雑な姿になってしまった。 だから、「龍は平和の象徴」だと言われるのである。 さて、その龍の字形を見ると、頭に冠をかぶり、胴をくねらせた大蛇(ダイジャ)の形を描いたものであり、「竜」の字の方がもともとの絵文字に近い。これに、いろいろな模様をそえた結果「龍」の字となった。
この「いろいろな模様をそえた」といういきさつは前述のとおりである。 【龍・竜】 【呉音】リュウ 【漢音】リョウ 【慣用】ロウ 【ピンイン】long2 【訓読】たつ 【解字】象形。もと、頭に冠をかぶり、胴をくねらせた大蛇(ダイジャ)の形を描いたもの。それに、いろいろな模様をそえて龍の字となった。 (1)たつ。 大蛇(ダイジャ)に似て、四足、つの、長いひげのある想像上の動物。 雲をおこし雨をふらせ、春分には天にのぼり、秋分には淵(ふち)にかくれるという。 四霊の一つで、えんぎのよい動物。 天子・豪傑にたとえる。「竜飛(天子の即位)」「竜昇」 (2)竜のようにすぐれた。「竜文」 【単語家族】 瀧(=滝。竜のうねるようなたき)・壟(ロウ。竜のうねるようなうね)と同系。 【辰】(たつ) の解説(クリック!) 【解字】象形。蜃(シン・かい)の原字で、二枚貝が開いて、ぴらぴらと弾力性のある肉がのぞいたさまを描いたもの。 【漢音】シン 【呉音】ジン 【ピンイン】chen2 【訓読】たつ, とき 【単語家族】 振・震と同系。 ◆十干十二支 -- 干支(えと・かんし) |
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